神様がいた会社パナソニックの経営改革・DEIとは

―組織・人材開発センター長の私がなぜDEIに取り組むのか―

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PEX社 組織・人材開発センター長 

森本素子

皆さんこんにちは!Panasonic学生長期インターンの安西咲百合と申します。


半年間のインターンの中で出会った気になる社員の方にインタビューさせていただく本企画も最終回になりました。

最終回は、PEX 組織・人材開発センター 責任者の森本素子さんにお話を伺いました。


私が森本さんにインタビューをさせていただいたきっかけは、

森本さんが社内女性コミュニティ“Panasonic Woman's Network”が主催するイベントにゲストとして登壇された際に

「社内のDEI」について様々なアクションをされていると知り、森本さんがDEIに熱心に取り組まれている理由を知りたいと思ったからです。


今回は社員の皆様に、森本さんが考える“会社にとってDEIを推進するメリット”や

“パナソニックを苦しめている凍土の正体”などについてお伝えします!

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もり  もと   もと  

森本素子

さん

PEX 組織・人材開発センター 所長/グループDEI推進事務局

1999年、松下電工株式会社に入社。99年入社以来、22年で10回の異動、2度の中国駐在を経験。職能として、法務・企画・経理・人事事業として、メカトロ、ハウジング、エイジフリー、ライティングを担当してきた。

現在は、T2DC(組織・人材開発センター)所長として、グループ全社の経営職200名弱が参加する経営研究会の事務局、事業会社化後の新任役員研修やレジリエンスプログラムの企画を推進。また、グループDEI推進に参画。

ほぼすべてにおいて「会社がどうなったらもっとシンプルで良い会社になるか」という考えのもと、活動している。


インタビュアー

安西咲百合 


関西学院大学社会学部2回生

女性社内コミュニティ Panasonic Woman’s Network 運営メンバー

有志団体航空宇宙事業本部やDAO研究会に所属

アイスブレイクを盛り上げるノーコードアプリ「シャベロカ」を作成

大学ではフィールド社会学を専攻し、まちづくりを勉強中

記事監修:宮島勇也


大阪府枚方市にある組織・人材開発センターで

お話を伺いました!

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目次


1.私とDEIの馴れ初め

2.会社にとってDEIを推進するメリットとは

3.パナソニックを苦しめている凍土の正体

4.自分とチームの凸凹を活かし、強みに変えるリーダーになりたい

5.私の原動力は松下電工での経験

6.これまで経験した中で最も痛かった怪我

7.パナソニックは人の会社

私とDEIの馴れ初め


―現在の森本さんのお仕事を教えてください。

 大阪府枚方市にある組織・人材開発センターのセンター長として、グループ内で組織開発と人材開発を行う責任者をしています。研修やワークショップなど色々なサービスを企画し提供しています。組織開発に関しては、グループの組織(チーム)が元気になるようにそれぞれ自分達の組織(チーム)について考えたり変化を起こすサポートを行なっています。人材開発で言うと、様々な研修やワークショップなどを行っています。

―組織開発とは、DEIの活動がそれに当たるのでしょうか?

 私の中では組織開発の中にDEIが含まれているのですが、世の中の人はそうではないかもしれません。

―森本さんがDEIにも注力されているのはどのような背景があるのでしょうか?

 2021年の4月に、当社が30%Clubに加入した際に、たまたま私が人事部門の管理職いうこともあって、30%Clubの代表として会合に出席することになったのが、DEIに出会ったきっかけです。

(※30% Club…2010年にイギリスで創設された企業の重要意思決定機関に占める女性割合の向上を目的とした世界的キャンペーン。30% Club Japanは2030年にTOPIX100の女性役員割合を30%にする目標を掲げ活動している。)

 その当時、突然コネクト社の社長の樋口さんから「30% Clubへの加盟にあたり、社内の中でのジェンダーの問題を正しく理解する機会が欲しいので、楠見さんと女性リーダーが話し合うラウンドテーブルを開催しないか」というお話をいただいたんです。それがきっかけで、私が事務局をすることになり、「ジェンダー以外の障がい・LGBTQ・キャリア入社など社内でマイノリティと言える人たちの活躍を支援するにはどうしたらいいのか」というテーマで話をすることにつながり、そのことでDEIについての活動を沢山することになりました。

なので、DEIの活動は直接的な今の組織としてのミッションでは実はないのです。

 しかし、一方、私のセンターには経営理念研修課という経営理念を深く理解し社内に発信する責任部門があります。CEOの楠見さんが経営基本方針を実践し、「一人一人が活きる経営」を作り上げるためにサポートするという仕事があります。

そして、そこには、松下幸之助さんが経営理念としておかれている「衆知経営」と「社員稼業」が深く関係しています。私は「全員の知恵が経営の上により多く活かされれば活かされるほど、その会社は発展する」という衆知経営と、「たとえ会社で働く一社員の立場であっても、社員という稼業、つまりひとつの独立した経営体の経営者である」という社員稼業を行うことは、「個人の強みを出して活かし合うこと」だと思います。そう考えると、経営改革とDEIの考え方は繋がっています。

 私たちの組織開発は、自分で自分の組織を良くしていくという活動なので、真に、社員としてのコミットメントや、お互いに引き出しあうというDEIへの取り組みが大切だと考えています。

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会社にとってDEIを推進するメリットとは


―DEIを推進することで会社にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

 会社って短期的な目標に対して行動する時は、同じ方法で同じ強さで同じ方向に向かう方が成果が出ると思うんです。沢山のモノを安く作れば会社が発展していく時代には、一人一人の創意工夫を出す必要もなかったので、効率よく連携させる仕組みが会社にとっても個人にとっても良い状態でした。

 しかし、今の世の中は、沢山変化が起こるような時代で、同じものを大量に作ったとしてもそれを購入する消費者もいなくなっている現状があります。そうすると、世の中の人々は、今どの様な人達がどの様なものを欲していて、何に困っていて我々はどんな答えを出せばいいのか考える時に、想像力や現場に足を運び確認してくる力、話を聞き深く理解して持ち帰ってくる力など色々な能力が必要なんです。昔より格段に複雑で難しい現代では、1人で仕事をすることは不可能なので、共通言語を持ちながらも組み合わさり、知恵を出し合うことで何かを創造するチームを作ることが非常に大切になってきました。

 そうすると、チームには多様な人がいた方がいいと思うんです。例えば、女性の生理や更年期の問題などを考慮して商品作りをする際に、30-50代の男性の方がアイデアを考えるのは難しいです。このように、経験が全てでは無いですが、当事者の方と接点を持っているか、少なくとも共感できる人でないとアイデアを発想できないということは沢山あります。各々の得意を組織としての力に変えていくためには、私達自身が「多様なところを引き出し合える集団」にならなければいけません。

 私は、この時代を生き抜くためにはDEIが力の源泉になると考えているため、多様であることを選択し伸ばす力に変えていくために訓練することが大事だと思っています。

―ただ単純に1人で行うのではなく、DEIという共通認識のもと、知識を集結させてグループ単位で協力することが今の時代に求められているのですね!


パナソニックを苦しめている凍土の正体


―森本さんが今年の元旦に発信された、「おさんぽ週報」を読ませていただきました。その中で「人を繋げ、発信していくことで、パナソニックの組織を“凍土”から解き放つ」という言葉がとても印象的でした。この「凍土」とは一体何を指しているのでしょうか?

(「おさんぽ週報」・・・森本さんが様々な活動を通じて得た気づきや情報などを個人的に発信しているメルマガです。受信希望の方はこちらから→https://forms.office.com/r/5fpNqjYQiC 、バックナンバーはこちらから読めます→https://iweb.is.jp.panasonic.com/manacoco/magazine/osanpo/

 なかなかいいところをつきますね。

社員が息苦しさや仕事以外のことが出来ない状態のことを、私は「凍土」と呼んでいます。

例えば、仕事をしていて、上司に「この仕事を来週までに急いでやってね」と言われたとします。渡されたタスクに対して「これが終わったら楽になれる」と思いながら働いていたら、また次のタスクが来て「私疲れてきているんだけどな...このまま仕事を同じように続けても改善される気はしないな...」と心の底で思いながら仕事をしている方もいらっしゃると思うんです。

 でも忙しいがゆえにあらためて「今のままの仕事の仕方で大丈夫でしょうか?」と言い出しにくいんです。すごく必死に仕事をして成果も出ているけれども、その仕事がいい働き方に繋がっているか、自分が成長している実感を得られるかという点から言うと、「辛い」という気持ちになってしまいます。もしかしたらそんな状態が「1年前からかもしれないし5年前からかもしれない」と思っている人がパナソニックの中にはいるんです。なので、私はその様な人達が感じる息苦しい状態を、「凍土」と呼んでいます。

―その凍土からは、どのような方法で解き放てるとお考えですか?

 凍土は、「自分は今凍土の中にいるんだ」と認知しないと変えることができません。「仕事=辛いこと」と考えていると、永久にその凍土の中で、回し車の中で回るハムスターのように走り続けることになります。

 そこで、一度立ち止まる必要があります。多くの場合は、体調不良や家庭の事情など自分の意図しないことにより仕事を休んだ時に、初めて「自分は一体何をしていたのだろうか」と発見すると思うんです。

その時に1人で発見することが多いのですが、周りも回し車の中で走り続けている状態で、「ずっと走り続けてますが、大丈夫ですか?」とアドバイスのつもりで言ったとしても「そういわれても止まれないから言わないで!」と走り続けてしまうのが、従来の職場だと思います。

私が考えるのは、そういう走り続けている人に「走り続けていてもどこにも辿り着きません」とお伝えし、「一度立ち止まり、この方向がどこに向かっているのかについてもう一度話し合いませんか?」「本当に私たちがやらなければいけないことは、これを忙しくするのか違うことをもっとやるべきか話し合ってみようじゃないですか」とどれだけ回し車を止められるかが鍵だと思っていて、私たちはそれを組織開発と呼んでいます。

 この組織が一旦立ち止まり既存の仕事について話し合い、もういちどどこをめざしているのかを確認することの習慣化ができればいいなと思っています。

― 回し車の表現が非常にわかりやすいです。確かに、回し車のハムスターにとって一度立ち止まることはかなり難しいですよね。実際に森本さんの周囲で走り続けている人が多いことがそれに気付かれたきっかけだったのですか?

 そうですね。私がライティング事業部にいた時に、現在のEW社のDEI推進室室長の栗山幸子さんが主催されている「NoZoMi Project」との出会ったことがきっかけです。

(NoZoMi Project・・・ライティングの女性キャリア開発促進を目的に女性基幹職の自主的活動として開始したプロジェクト。現在は、のぞみの風というブログでの発信活動やメンタリングを実施している)

 栗山さんが部長になられてライティング事業部の課長以上を集めた会議に参加した際に、約100人出席している中で女性が栗山さん1人だったんです。周りを見渡すと女性が栗山さんしかいない状況で、栗山さんは「私が何十年も前に会社に入った時と同じやん。何も変えられてないやん!」と思い、周囲の課長職の女性達を集めて、もっと女性の働き方だけじゃなくて会社全体を変えるために、働きかけようと始めたのが、NoZoMi Projectなんです。

 名前の由来は、ライティングって光(ひかり)ですよね。新幹線のひかりを越えるという意味で「のぞみ」となりました。

―とても夢がある名前ですね!

 可愛いでしょ!とてもセンスがいいなと思います。笑

私がライティングにいた女性の責任者の1人だったので、NoZoMi Projectでお話を聞いていた時に、その人たちが「会社の課題について5年前も同じ話をした。何も進められていない。」と言っていたんです。私は、この人たちが悩んでいる問題を放置しているのが許せなくて、事業部長に「女性の問題を掘ったらライティング事業部の課題が掘れました」とお話をし、ライティングの組織開発をすることになりました。

 ヒアリングを通して、何を変える必要があり、何がそれを阻害しているのかについてそれぞれの人が言語化する事は、非常に大切です。ヒアリングの中で、問題と問題の共通点や類似点が見えてくることで、ハムスターのように回り続ける原因に近づくことができるんです。

―森本さんのような、疲弊しながらも走り続ける人を止める人が組織に必要だと思いました。立ち止まり変わることができたという前例ができれば、「私も組織を変えられるかもしれない」と希望が持てるのではないかと思いました。

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自分とチームの凸凹を活かし、強みに変えるリーダーになりたい


―組織の問題点を明らかにして上司にはっきりと伝えられたり、これまで経理や企画・秘書・人事など色々な職能をご経験されてきた森本さんは完璧な方だと私は思っているのですが、ご自身の中で今後成長していきたい部分はありますか?


 完璧ではないですし、成長していきたい部分もめちゃくちゃありますよ。

みんなからも言われているのですが、私ほど凸凹が激しい人はいません。自分でできないこと・得意じゃないこと、沢山あるんです。色々な職能を経験していますが、その職能のプロじゃないんです。経理の仕訳も出来ないです。

 では、私にできることとは、どんなことに対しても課題を洗い出し、問いを作り、それに必要な情報を集め、1番大事なコアを明確な言語で表し、「これは、こうするべきじゃないでしょうか」とトップに意思決定をさせることで、私はそれのスペシャリストです。でも、逆にこれしかスペシャリストじゃないんです。それ以外は何もできません。


―それ以外のことはどのようにしているのでしょうか?


 それ以外のことはチームメンバーにおまかせしています。


―それは苦手だとどうやって開示しているんですか?


 聞かれたらこれが出来ませんと言っているんです。笑

「これが出来ないのでお願いできますか?」と言います。私の周囲の人は、私の苦手なことを大抵知っていると思います。


―例えばどのようなことが苦手なんでしょうか?


 実は、スケジュール管理が苦手なんです。ざっくりしか覚えられないため、スケジュール管理ができる人に「来週これありますと2回ぐらい言ってください」とお願いして、多めにアテンションをあげてもらうようにしています。私のスケジュールを公開しているのは、秘密にすることがないという理由以外にそういう理由が半分あります。笑


―自分の強みを最大限発揮できるように、苦手なことは任せていらっしゃるんですね。明確にスケジュールを開示されていると、周りもサポートしやすいですよね。


 そうですね。

この組織・人材開発センターの経営会議もメンバーに開示しています。このセンターに所属しているメンバーは約120人ですが、経営会議に毎回半数以上のメンバーが見に来ます。経営会議では、その場で重要なことを話していて、センター長である私もリアルタイムで見ることができる実況スレを立てているので、社員からも風通しがよくなってきたという声を聞いています。


―まるでTwitterみたいですね!風通しがいいと感じました。


 風通しは良すぎて困ることは何も無いです!

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私の原動力は松下電工での経験


―ここまで、没入して仕事に取り組まれている森本さんの原動力は何でしょうか?


 私は入社がパナソニックではなくて、松下電工なんです。松下電工って全然洗練されてなくて乱暴で、あまり仕事の専門分化もしてなくて、何でも挑戦できて何をしても怒られない放し飼いの会社でした。

ので、会社が合併するまでの十数年は、すごく自由な会社だったんです。上司も「いいよいいよ。森本さんがやりたいならやっていいよ。」といった様子で、その自由さがあったからこそ会社が上手く回ってきたと思っています。

 私は、会社っていうのは、あのぐらい自由でも壊れないしやる気にはなるし、楽しいやり方もあるというのを体験的に知っているんです。

なので、私は今も、この会社ももっと自由でもっと放し飼いで、会社のために正しいと思ったらやりたいことをやれるようにした方が成果は上がると思っているんですよ。私と同じように、それが楽しいと思って没入して仕事ができた方が成果は上がりますし、「みんなに成果を出させてあげたい!楽しいと思わせてあげたい!」といつも思っています。


―森本さん自身が自由な環境で仕事の楽しさを知られているからこそ、松下電工のいい部分を今のPanasonicにも取り入れて、社員全体にそのように感じて欲しいという想いがあるんですね。もし森本さんが今のパナソニックに新入社員として入社されたら、どのように働かれますか?


 どこでどんな形でどの会社に入社しても、今と同じような働き方をしていると思います。


―それは、森本さんがご自身の例えとしてよく使われている「暴走機関車」のスタイルでしょうか?


 そうです!笑

でもね、破綻しないように味方を作って暴走しているんです。暴走できるように味方を作っているところもあるし、味方がいるから暴走できています。完全に破壊しようとすると、会社ってなかなか上手くいかないんですよ。なので、破綻しないギリギリのラインで、どこまでだったら踏めるかをずっと考えています。


―ギリギリのラインはどのようにしたら分かるのでしょうか?


 踏み越えて怪我をして学びます笑

「あ、これがダメだったんだ!怒られた!」という経験から、どこまで踏めばいいかのさじ加減が分かってきたんです。

私の元上司が言ってました。「目の前に達成したいことがあって、手前に地雷があったとする。お前はその地雷は踏まなあかん、踏むことで仲間ができることもあるし、踏むことによってしか前には行けないから踏むんだ。だけど死ぬな。」そのように私は育てられたので、地雷があったら軽く踏んでそれを爆発させながら前に進んでいく方法をとるようにしています。


―傷が出来ても前に進まれるんですね。


 そうですね。でも1人ではないんです。怪我をしたら「傷パッドどうですか?」「包帯を貸しましょうか?」と言ってくれる人が現れるんです。それと、やっている内に回復力が早くなっていくんです。


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これまで経験した中で最も痛かった怪我


―沢山怪我をされてきた森本さんが、今までで1番痛かったと感じた怪我は何でしょうか?


 昔、中国で勤めていた時に会社が現地化することになり、当時新しく着任した中国人の社長の水先案内人を務めることになりました。しかし、その社長は高圧的な発言をするなどの古いマネジメント手法で、社員も疲弊したり萎縮して会社を辞めたい人が何人か出てきたんです。

その時は本当に辛かったです。現地化って一見正しいので止められなかったですし、その時は30歳頃だったので私自身も止め方が分からない状況だったんです。でも「この人を止めないといけない」という現状にすごく悩んで苦しんだことがあります。

 トップに誰かがこの現状を伝えなければいけないのに、私には社長に繋がるようなネットワークもない。そんな中で、私には何ができるか必死に考えて、武器を見つけることだと思い、他者の現地化事例を調べました。NECさんとかSUNTORYさん・ダイキンさんとか色んなところの事例を聞きに行き、彼らがどれだけ慎重に時間をかけて自分達の会社の理解をしてもらうプロセスを経て、任命するかどうかを決めているのか、しかもそれを暴走させないためにどれだけ保険をかけているかを調査しました。それを図式化しパナソニックはこれが出来ていませんという資料を作り、常に懐に忍ばせていたんです。

 ある日、社長がある案件で中国に来られたので私が飛行場に迎えに行った時に、私の顔を見た社長が「森本さんの顔色が悪くてすごく辛そうだった。いつも元気なあの子があんだけ辛そうなのは、何かあったのか?」と私の上司に聞いたようです。それに対して、上司が「彼女だけじゃなくて他の社員も、新しい中国人のトップの人とうまくいかず苦しんでいるようです。」と伝えてくれたことをきっかけに、その社長が翌日の昼の飛行機で帰るところを朝の8時から社員4人と1on1をしてくれることになりました。3人目の社員が私だったので、1on1の際にここぞとばかりに懐にしまっていた資料を出し、他社の事例とうちの会社の課題点、予想される将来への不安を社長にぶつけました。社長は朝8時から打ち合わせしていたので、ライターで火をつけたシケモクを吸いながら私の話を聞いてくれました。4人との話し合いを終えた後、社長から「僕から引導を渡すので、中国のトップと日本に出張してもらえないか?」と言われました。その後、日本で2人の会談の通訳をして、その時代を終わらせました。

 仕事が楽しくないと思ったのは何回かしかないのですが、この時は辛かったことを覚えています。でも、時間はかかっても何事も変化させることが出来るという経験になりました。


―なるほど、色々な経験から物事は変えられることができるという確固たる自信を手に入れられたのですね。


 そうですね。私が困っていて本気で変えたいと思ったことで、変わらなかったことは無いです。大抵やろうと思ったら変えられると思っています。


―今後DEIを推進したいという森本さんの想いは非常に伝わってきたのですが、特に注力したいことはありますか?


 それぞれの職場が回し車をカラカラさせている現状があり、それを話し合うところまで持っていくという0から1の部分がすごく難しいと思っています。誰かが話し合いたいと思った時に、「ほんの短時間でいいのでこれを考えてみませんか?」という状態にできることや、課長が仕事に追われているチームのメンバーを集め少し話したい時に使えるコンテンツを作りたいと考えています。

 本格的なものだとみんなの心が動きにくいので、カジュアルに試せて、本質的なところにちょっと触れて「これってやった方がいいよね」という終わった後の感触になるような時間の使い方の設計をやっていきたいです。


―時間の使い方の設計とは、カラカラ回っている回し車をピタッと止めるようなことでしょうか?


 そうそう。ピタッと止めることは難しいので「カラ...カラ...」という風にね。

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パナソニックは人の会社


 うちの会社の凄いところは、「こういうものを作りたいんだよね」と声を上げたら、「作りましょう!」と言ってくれる人がいるところだと思っています。

私の部下でもなく、関わったことがない人でも「私もそれ大事だと思います!」と手を挙げてくれる人がいるんです。そうやって色々な業種や年齢の方が一緒に集まり、組織のために必要なことができる会社はなかなかないと思います。


―すごく前向きですね!


 そうなんです!その人達の気持ちを、そういう人に出会えないから苦しんでいる人たちに繋げられる流れを作りたいと思っています。


―これまで沢山の壁にぶつかりながらもここまでの熱量でお仕事をされている森本さんはパナソニックに対する愛情も人並み以上に持たれているのではないかと思うのですが、そんな森本さんが考えるパナソニックとはどのような会社でしょうか?


 今はっきり申し上げられることは、パナソニックは「人の会社」です。パナソニックの中に集まっている人が凄いんです。その事業には活かされていないんですが、色々なことをできる凄いタレントが沢山いて、その可能性を解き放てば光り輝く会社になれると本気で思っているんです。

 それって「タガを外すだけやん」って思っているので、「それが私の仕事やん」って思っています。


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インタビューを終えて

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

インタビュー企画最終回は、お話を伺いたいと熱望していた森本素子さんとお話させていただくことができました。

パナソニックの可能性を信じ、変えられないものはないと断言される森本さんの想いが社員の皆様に伝わっていたら嬉しいです。

森本さんのお話を聞き、困難な壁にぶつかっても自分を信じる大切さや、今の時代にはチームで得意・不得意を補い合い目的達成

のために協力することが重要だと学びました。

私も森本さんのように、怪我をしても立ち上がり前に進み続け、人を幸せにできる社会人になりたいです!

他の社員インタビュー記事はこちらから!

第1回 井村円香さんの記 「地方勤務で孤独だった技術職の私が社内女性コミュニティとの出会いをきっかけに

               社内風土改革の仕事をすることになった話」

第2回 武永かなえさんの記事「2つの社内有志活動に取り組む私が自らサポーターという役割を選ぶ理由」

第3回 出口隆啓さんの記事 「文系出身で本業マーケティングの私が航空宇宙事業本部長(仮)になった話」

第4回 山本真那さんの記事 「パナソニックの社内イベントを支える“MANA System”とは」


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(「この人にインタビューしてほしい!」という声もお待ちしています!)